~初出~『赤い地獄』(川奈まり子著 2014年9月1日・廣済堂出版)
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連作実話奇譚『八王子』は、私が初めて書いた怪談風の読み物です。
初出のホラー短編集『赤い地獄』を出すことになったとき、当初は、それまでに書きためていた小説の習作二編と書き下ろし一編で一冊にまとめる計画でした。
ところが書き下ろした小説が短すぎたため、もう一編、何か書くことになりました。
他の三編はフィクションですから、それもフィクションにしなければ……と考えていたところ、担当編集者の佐藤さんから「実話怪談風のエッセイを書いてみてはどうか」と提案されて、挑戦することになったのですが……ひとたび書きはじめると、水を得た魚と申しますか、話を綴る筆が止まらず、みるみるうちに書きあがってしまったのでした。
そして、それまで実話怪談を書いたことはなく、田中貢太郎や泉鏡花の怪談と、あとは『新耳袋』シリーズぐらいしかその手のものを知らず、まったくの自己流だったのに、『赤い地獄』が発売されると、収録作の中で最も好評なのがこれでした。
その結果、すぐに竹書房の怪談アンソロジー文庫に参加させていただくことになり、すみやかに実話奇譚の単著の企画と連載が決まって今日に至る次第。
つまり『八王子』が、書き手としての私の運命を決めてしまったわけです。
今回、縁あって、改訂版を発表することと相成りました。
読み返してみると、上手いか下手かはともかく不思議な吸引力のある文章で、こういうものは二度と書けないと思ったので、加筆修正は必要最小限に留めました。
怪談作家としての私のルーツであるこの作品が、再び多くの読者に出逢えるように願っております。