熨子山連続殺人事件から3年。
金沢港で団體職員の遺體が発見される。他殺の疑いがあるこの遺體を警察は自殺と判斷した。相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。その偶然が彼を事件に巻き込んでいく。
石川を舞臺にしたオーディオドラマ「五の線」の続編です。
※この作品はフィクションで、実際の人物・団體・事件には一切関係ありません。
【公式サイト】 http://yamitofuna.org
【1話から全部聴くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/
25.1.mp3 金沢駅近くの會館。この一階の大ホールに大勢の人間が集まっていた。コミュの定例會である。參加者は先日のものより數段多い。これも岩崎香織が電波に乗った効果なのだろうか。 「みなさん。こんばんわ!」 司會者が參加者に向かって大きな聲で挨拶をするとそれに參加者は同じく挨拶で応えた。 「いやー今日は隨分と參加者が多いですね。特に男性の方がいつもより多い気がします。」 彼がそう言うと參加者はお互いの顔を見合った。 「やっぱりなんだかんだと言ってテレビの影響力ってすごいんですね。試しに聞いてみましょうか。今日始めてここに來たっていう人手を上げてみて下さい。」 半數が手を上げた。 「なるほどー。じゃあ今手を上げた人たちにもうひとつ聞いてみましょうか。岩崎香織を見てみたいって人は手を上げてみて下さい。」 全員である。 「いやー岩崎人気はすごいですね。」 ステージの裾の方にいた村井は腕時計見目を落とした。そして側にいたスタッフに聲をかける。 「インチョウは。」 「駄目です。攜帯の電源が切られてます。困りましたね。」 「…何なんだよ。こんな大事な時に。」 「連絡が取れんがですから。仕方が無
25.2.mp3 7時間前 12:00 「1512室ですか?」 「はい。」 「失禮ですがお名前をお願いします。」 「岡田と言います。」 「岡田様ですね。失禮ですがお名前もいただけますか。」 「圭司です。」 「岡田圭司様ですね。しばらくお待ちください。」 ホテルゴールドリーフのフロントの女性は受話器を取って電話をかけはじめた。 「フロントです。ロビーにお客様がお見えになっています。はい。ええ男性です。岡田さんとおっしゃるそうです。ええ。はい。かしこまりました。それではお部屋までご案內致します。」 女性は電話を切った。 「私がご案內いたしますので、一緒に來ていただけますか。」 「え?どこか教えてくれれば自分で行きますけど。」 「當ホテルのスイートルームになりますので、私がご案內いたします。」 「スイート?」 エレベータを5階で降りそのまま廊下をまっすぐ奧に進むと、いままであった部屋のものとは明らかに作りが違うドアが現れた。重厚な作りの観音扉である。女性はインターホンを押した。暫くしてその扉は開かれた。 「おう。」 「え?」 扉を開いたのは數時間前まで捜査本部に岡田と一緒にいた、県警本部の捜
26.1.mp3 コミュの會場となった會館前には複數臺のパトカーが赤色燈を燈して駐車していた。會館には規制線が敷かれ関係者以外の立ち入りは厳禁となっている。週末金沢駅の近くということもあって、このあたりで仕事帰りに一杯といった者たちが野次馬となって詰め寄せていた。規制線の中にある公園ベンチには、背中を赤い血のようなもので染め、遠くを見つめる下間麗が座っていた。 「ついては岡田くん。君にはこの村井の検挙をお願いしたい。」 「罪狀は。」 「現行犯であればなんでもいい。」 つばを飲み込んで岡田は頷いた。 「よし。じゃあ君の協力者を紹介しよう。」 「え?協力者?」 奧の扉が開かれてひとりの女性が現れた。 「岩崎香織くんだ。」 岩崎は岡田に向かって軽く頭を下げた。 「岩崎…?」 ーあれ…この女、どこかで見たような…。 「近頃じゃネット界隈でちょっとした有名人だよ。」 「あ…。ひょっとしてコミュとかっていうサークルの。」 「正解。それを知っているなら話は早い。そのコミュってのが今日の19時にある。そこにはさっきの村井も共同代表という形でいる。」 「村井がですか?」 「ああ。」 「君には岩崎くとにコ
26.2.mp3 「12月24日お晝のニュースです。政府は24日午前、2015年度第3次補正予算案を閣議決定しました。今回の補正予算は今年10月に國家安全保障會議において取りまとめられた「日本國の拉致被害者奪還および関連する防衛措置拡充に向けて緊急に実施すべき対策」に基づいた措置を講じるためものです。 この予算案では先ごろ國內で発生したツヴァイスタンの工作員によるテロ未遂事件を受けてのテロ対策予算の拡充として500億円。ツヴァイスタンに拉致された疑いがある特定失蹤者の調査費として28億円。近年日本海側で脅威となっている外國船の違法操業対策および外國公船の領海侵入対策として海上保安庁の予算を新たに1,000億円追加します。あわせてツヴァイスタン等によるミサイルの脅威に対抗するため、新たに5兆円の防衛予算を措置します。防衛予算においては國際標準である対GDP比2%の達成を継続的に維持するため、來年度の本予算においては今回の補正予算の5兆円を既に盛り込んだ10兆円とする予定です。これで今回の補正予算における予算額は合計で5.1兆円となります。これはリーマンショック以降の補正予算としては過去最
23.mp3 霞が関合同庁舎の前に立った片倉は、登庁する職員に紛れていた。皆、言葉も何もかわさずただ黙々と歩き続ける。立ち止まった彼はおもむろに攜帯電話を取り出して電話をかけた。 呼び出し音 「片倉です。おはようございます。」 「おはよう。いまどこだ。」 「公庁の前です。」 「なに?予定は15時だぞ。」 「なにぶん不慣れな東京です。昨日の夜金沢出て車で休み休み來ました。」 「車?」 「はい。これがあと半年先ですと北陸新幹線で2時間半とちょっとでここに來ることができたんかもしれませんが。」 「北陸新幹線な…。」 「まぁ部長との予定の時間まで隨分ありますから、それまでどっかのネットカフェで休憩でもとります。」 「待て。せっかく來たんだ。俺の部屋まで來い。」 「え?」 「こっちも遠路はるばるお前が來るから、何かおもてなしをしないとと思って、その準備をしようとしていたところだ。」 「そんな…気を遣わんでも…。」 「こんな時間にまさか貴様が來るとは思わなかったから、何の準備もできていないが、空調が効いた部屋にいるほうがお前も疲れがとれるだろう。」 「あ…いいんですか?こんな田舎のいちサツカンが部
24.1.mp3 ドアをノックする音 「來たか。」 朝倉はドアに向かって部屋に入るよう言った。 長身の男がドアを開け、ゆっくりとした動作で部屋に入ってきた。 「え…。」 片倉の存在に気がついた男は思わず立ち止まった。 「なんでお前がここに…。」 「これは…どういうことなんや…。」 「部長。これはどういうことですか。」 男は不審な顔で朝倉を見るが彼は意に介さない。 「片倉。この男に見覚えがあるだろう。」 「…え…。」 「紹介しよう。直江首席調査官だ。」 朝倉は直江に片倉に挨拶をするよう促した。 「…直江真之です。いつぞやはお世話になりました。」 「直江…やっぱりあん時の…。」 「朝倉部長。これはいったいどういうことですか。」 直江の顔には朝倉に対する不信があからさまに出ていた。 「貴様の代わりだよ。」 「え?」 「モグラは退治しないとな。」 「モグラ?」 朝倉のこの発言に片倉は絶句した。 「え…。」 「調査対象であるコミュに調査員を派遣させるも、奴らは常にそれを察知していた。」 「なんやって…。」 「公調の動きがどうも奴らに筒抜けになっている。そう考えた俺は警察を裝って內密に金沢銀行にコ
24.2.mp3 「若林くん。朝倉部長に聴かせてあげろ。」 「はい。」 攜帯電話を取り出した若林もまた、応接機の上にそれを置いた。 「工夫しろ若林。」 「あまり事を荒立てるなといっただろう。」 「ですが、あまりに突然のことでしたので。」 「その後の工夫が足りんと言ってるんだ。」 「はっ。もうわけございません。」 「しかしお前は籠絡だけは上手い。」 「ありがとうございます。」 「だが程々にしておけよ。あまり深入りすると足がつく。」 「何せ公安の奧方ですからね。」43 音聲を聞いた片倉の表情が変わった。 「公安の…奧方…?」 「なんだ若林。」 「今もまだベッドでぐっすり寢ていますよ。そろそろ帰らないといけないんですが。」 「くくく…。」 「いやぁ40しざかりって本當なんですね。」 「そうか…。そんなにか。」 「ええ。ちょっとこっちが引くくらいでした。」 「はははは。この下衆男め。」 いつになく朝倉の表情が豊かである。 「部長。これは仕事です。」 「ああわかっている。からかってすまなかった。」 「こっちも必死なんですよ。何とかして奮い立たせないといけませんから。」 「ふふふ...今日のお前は
22.mp3 「下間確保しました。」 「了解。」 「これからマサさんと下間の通信手段を抑えます。」 「わかった。くれぐれもホンボシに感づかれないように注意しろ。」 「了解。」 土岐は無線を切った。 「いい流れだね。」 「はい。」 県警本部長室の中には各種無線機が並べられ、數名の捜査員が詰めている。その中で本部長の最上と警部部長の土岐は向かい合うようにソファに掛けていた。 「七里君は?」 「安全なところに匿っています。」 「江國は?」 「情報調査本部の取調室です。今川逮捕と橘刑事告発の話を聞いてシステム改竄についてすぐにゲロしました。」 「ほう。」 「今川から県警システムの受注話を聞いたときから、鍋島の指紋情報を都合よく改竄できるよう細工を施していたようです。」 「そうか。」 「HAJAB成長の鍵を握っていた今川を抑えられ、金沢銀行システムの斡旋窓口だった橘がやられたとなると、流石に江國もどうにもならずに早々に敗北を認めたというところですか。」 「そういうところだろうな。」 「それにしても一色貴紀という男をとりまく人物のその…絆とでも言うんでしょうか…。どうしてここまで人を動かすんでしょ
20.mp3 「こいつとお前を殺す。」 銃口を向けられた古田は微動だにしない。 「…心配するな一瞬だ。」 「ふっ…。」 「なんだ。」 「最後の最後でチャカか。あ?鍋島。」 「なんだてめぇ。」 「お前は散々人を殺めた。その手口は全て絞殺もしくは刺殺。チャカは使わん。そんなお前がここにきてチャカを手にした。」 「だから何なんだ。」 「相當切羽詰まっとれんな。」 「うるさい。」 古田は右拳を鍋島に向けて突き出した。 「あん?」 「鍋島。これに見覚えがあるやろ。」 そう言うと古田は握りしめていた右手を開いた。 それを見た鍋島の動きが一瞬止まった。 「村上が使っとったジッポーや。」 「それがどうした…。」 「お前が目指した殘留孤児の経済的自立。それを支援しとった村上のな。」 「言うな。」 「お前が金金言うとる橫で、村上は仕事を斡旋したり本當の意味でのあいつらの自立支援に取り組んどった。自分の金を持ち出してな。」 「…。」 「熨子山の塩島然り、相馬然り。村上の世話になった人間は數しれん。」 「相馬…だと…。」 「それがどうや。お前はそんな村上を殺した。それがもとで相馬は會社を厄介払いされた。そん時
21.mp3 「ご苦労さん。トシさん。今どこや。」 「病院や。」 「傷は。」 「幸い大した事ない。」 「…良かった。いきなりガサッっていってトシさんうめき聲出すんやからな。」 「ふっ。ワシも長いサツカン人生で撃たれたのは初めてやわいや。こんでしばらく手は上がらん。」 「痛いんか。」 「あたりめぇや。だらほど痛いわ。」 「ほんだけ元気があるんやったら、すぐにでも復帰できそうやな。」 片倉は煙草を咥えた。 「トシさんを撃って、すぐさま鍋島の頭を撃ち抜く。悠里のやつここまでの腕を持っとったとはね。」 「あぁ得物はVSSらしい。」 「VSS?」 「あぁワシはその手の重火器についてはよく分からんが、SATの詳しい奴が言うにはロシア製のもんらしい。なんでも開発時に要求されたんは「400メートル以內から防弾チョッキを貫通する完全消音狙撃銃」。(出典https://ja.wikipedia.org/wiki/VSS_(狙撃銃))悠里が狙撃をしたんは丁度400メートル離れたマンションの屋上。そこから射程ギリギリの標的を見事狙撃するわけやから、あいつの腕は恐ろしいもんやと。」 「ほうか…。」 「こんだけの